東京高等裁判所 昭和30年(う)3030号 判決
被告人 堀内学 外一名
〔抄 録〕
原判決が証拠に挙げた被告人三名、原審相被告人福岡英一及び関係人等の司法警察員及び検察官に対する各供述が、いずれも所論の如く捜査官の強制、誘導に基いてなされた任意性のない虚偽の供述であり、原審公判廷における相被告人福岡英一の供述中原判示に副う部分もまた右捜査官に対する供述をそのまま踏襲した不本意の供述であるとの事実は、被告人三名及び原審相被告人福岡英一の原審公判廷における供述弁解その他所論の各証拠をもつてするもこれを肯認し難く、却つて各供述内容自体に徴し、且つ各供述を相互に対照検討すればいずれも任意に真実を述べたものとしてこれを信憑するに足りる。しかして右各証拠と原判決挙示のその余の証拠とを総合すれば被告人三名がそれぞれ原判示日時、場所(但し被告人栗本金定にかかる原判示第一の(一)及び(二)の金員授受の場所の点を除く)において福岡英一又は川合賢三から原判示各金員の交付を受けたこと、右はそれぞれ被告人等の原判示職務に関し原判示の如き謝礼及び依頼の趣旨(但し被告人堀内学にかかる原判示第二の(一)の金員授受の趣旨の点を除く)の下に供与されたものであること、被告人等はいずれもその趣旨を諒承しながらこれが交付を受けたものであることその他被告人三名にかかる原判示各事実を認めることができる。又右各証拠によれば、原判示第一の(一)の金員授受の場所は東京都新宿区若葉町一丁目十二番地なる被告人栗本金定方であること(註一)、同第一の(二)の金員授受の場所は同都渋谷区神宮通一丁目十七番地渋谷区役所内助役室であつたこと(註二)、同第二の(一)の金員は福岡建設株式会社が渋谷区役所における小中学校建築工事請負契約競争入札に際し競争入札者として指名されるについて便宜な取扱を受けたこと及び請負工事代金を急速に支払つて貰つたこと等に対する謝礼並びに将来も同様の便宜を計られたいという趣旨の下に交付され(被告人堀内学はその趣旨を諒承してこれが交付を受け)たものであること(註三)が認められる。なるほど所論の各証拠によれば福岡英一は被告人栗本金定、同堀内学と特別懇親の間柄であつて、予ねて屡々両名の紹介斡旋により事業資金の融通を受け又は東京都内他区の公立学校建築工事を請負つた等のことがあつて両名に対し恩誼を感じていたこと、福岡英一及び川合賢三は原判示各金員をそれぞれ各所論の如き貸金、謝礼金、又は寄附金なる名義の下に被告人等に交付したものであることはこれを看取し得ないわけではないが、他面右各金員交付の本来の意図が公務員たる被告人三名の職務に関する叙上の如き謝礼乃至依頼の趣旨にあつたことは、前記説明のとおり証拠上明らかであるから、被告人三名の右金員収受の所為は、公務員がその職務に関し賄賂を収受したものに外ならず、それぞれ収賄罪の刑責を免かれないものと言わねばならない。尤も原判決が判示第一の(一)及び(二)の各金員收受の場所、同第二の(一)の金員收受の趣旨につきそれぞれ原判示の如き事実を認定したのは、いずれも事実誤認のそしりあるを免かれないことは所論のとおりであるけれども、原判決の挙示する証拠によれば右判示第一の(一)及び(二)の各收賄の事実は、その日時、相手方、授受にかかる金額、金員授受の趣旨等により犯罪場所の点を除くも優にこれを特定し得られ(殊に判示第一の(二)の犯罪場所に関する原判決の事実認定は、渋谷区役所庁舍内において金員授受の犯罪が行われたものであるとする限りにおいては、事実の特定に役立つ。)、又右判示第二の(一)の金員授受の趣旨について原判決の認定するところは、要するに右金員は渋谷区役所收入役たる被告人堀内学の職務に関し同人から前記の如く福岡建設株式会社が同区役所から請け負つた同区立学校建築工事代金を急速に支払つて貰つたことに対する謝礼等の趣旨で供与された賄賂であるとするに帰し、これが供与の日時、場所、供与者、授受した金額等と相俟つて該收賄の事実を特定するに妨げなく以上いずれの認定事実についても、公訴事実乃至訴因の同一性を認めるに十分であるとともに、この事実誤認の瑕疵があつても毫も被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜず又刑の量定にも影響しないものと認められ結局いずれも判決に影響を及ぼすところはないと言うことができるから、これをもつて原判決を破棄するの理由とはなし得ない。
二、又原審が被告人栗本金定にかかる原判示第一の(三)の事実において金員授受の趣旨につき、訴因変更の手続を履践しないで起訴状記載の公訴事実(註四)と異なる事実を認定していることは記録に徴し論旨の指摘するとおりであるけれども、右原判示事実は、金員授受の当事者、その日時、場所、金額、これが被告人栗本金定の渋谷区助役たる職務に関する賄賂たることにおいて起訴状記載の公訴事実と全く同一であるのみならず、右金員授受の趣旨においても、起訴状の記載と原判決の認定したところとは、究極において被告人栗本金定の右職務上便宜、有利な取り計らいに対する謝礼並びに依頼等の趣旨に出でたものであることを表示していることは明らかであつて、右事実認定は毫も訴因の同一性を逸脱し被告人の防禦に実質的な不利益を及ぼすところはないものと認められるから、訴因変更の手続を経ずに判示事実を認定した原審の措置には何等所論の如き訴訟手続上の法令違反の廉はない。
(三宅 河原 遠藤)
註一 原判示の場所は「東京都渋谷区代々木山谷三百八番地の被告人の居宅」
註二 原判示の場所は「東京都渋谷区神宮通一丁目十七番地渋谷区役所収入役室」
註三 原判示の趣旨は「福岡建設株式会社が工事を請負つていた同区立松濤中学校第二期工事の請負代金の前払金五百万円を急速に支払つて貰つたことに対する謝礼」
註四 起訴状記載の公訴事実における賄賂の趣旨は「東京都渋谷区役所より同区立松濤中学校の第二期工事を請負つている甲から(中略)材料購入の為工事代金の前払をなし得る旨の議案を同区議会に提出して可決せしめ且つ(中略)右工事代金の中前払金五百万円を急速に支払つた謝礼」
原判示の趣旨は「福岡建設株式会社が渋谷区役所の小中学校建築工事請負契約競争入札に際し、競争入札者として指名されるについて便宜な取扱を受けたこと及び請負工事代金を急速に支払つて貰つたこと等に対する謝礼並びに将来も同様の便宜を計られたいという趣旨」